はじめに:手汗で名刺がふやける営業マンへ
「こんにちは! 今日は素晴らしいご提案を持ってきました!」
「天気もいいですね! さて、御社の課題ですが…!」
…死にたくなりませんか?
こういう「THE・営業マン」みたいな明るいトーク。
私は無理です。39歳で未経験の営業職に放り込まれましたが、根っからの陰キャでコミュ障です。
初対面の人と話すだけで脇汗が滝のように流れるし、沈黙が怖くて「あ、あ、あの…」とどもり、客先を出た後には自己嫌悪で吐き気がする。
かぱお隣で見てて心配になるだっぺ。
入社当初、私は必死で「陽キャ」のマネをしようとしました。
流暢に喋ろう。間を埋めよう。明るく振る舞おう。
結果、どうなったか?
「君、何言ってるか分からないし、なんか必死すぎる」
お客様にこう言われて、出禁になりました。
手取り22万、14時間労働。
これ以上、成果が出なければクビになる。でも、性格なんて今さら変えられない。
追い詰められた私が、生き残るためにたどり着いた結論。
それは、「喋らない」ことでした。
これは、口下手な私たちが、流暢なトークで武装したエリート営業マンに勝つための、唯一の「生存戦略」です。
もしあなたが、「気の利いたことが言えない」と悩んでいるなら。
安心してください。営業において、あなたのその「口の重さ」は、最強の武器になります。
第1章:「流暢なトーク」という最大の勘違い
1. 喋りすぎる営業マンは「詐欺師」に見える
まず、洗脳を解きましょう。
「営業=喋る仕事」というのは、昭和の幻想です。
今の時代、お客様は賢くなっています。ネットで情報を調べ尽くしています。
そんな相手に対して、立て板に水のごとくペラペラと喋りまくる営業マンが現れたら、どう思うでしょうか?
「うわ、売り込みに来た」
「口が上手いな。騙されないようにしよう」
こうやって心のシャッターをガラガラと閉められます。
陽キャの営業マンが陥りやすい罠がこれです。
彼らは「喋れる」がゆえに、相手の思考を遮り、自分のペースで押し切ろうとしてしまう。
2. 「陰キャ」の不器用さは「信用」に変わる
一方で、私たちのようなコミュ障はどうでしょうか。
言葉に詰まる。説明がたどたどしい。面白い雑談なんてできない。
一見、ダメ人間に見えます。
しかし、お客様の心理は違います。
「この人、営業っぽくないな」
「不器用そうだけど、嘘はつかなそうだな」
そう、「喋れない」ということは、「騙す能力が低い」という証明になるのです。
私がボソボソと、しかし正直にスペックを説明すると、お客様は不思議と身を乗り出して聞いてくれます。
私たちは、DJでも芸人でもありません。
面白おかしく喋る必要なんて、1ミリもないのです。
第2章:「沈黙」は放送事故ではない。最強のクロージングだ
1. 人は「沈黙」に耐えられない生き物
私が編み出した「地獄の営業術」の核となるのが、「意図的な沈黙」です。
想像してください。
エレベーターの中で、知らない人と二人きりになった時のあの気まずさ。
会議で誰も発言しない時の、あの重苦しい空気。
人間には「空白(沈黙)を埋めようとする本能」があります。
沈黙が続くと不安になり、何でもいいから喋ってその場を和ませようとするのです。
陽キャの営業マンは、この沈黙を怖がって、自分で喋って埋めてしまいます。
「いやー、実はこの商品、ここが凄くてですね!」と。
これが敗因です。
2. 沈黙を「客に投げつける」
私は逆にします。
重要な質問をした後、あるいは価格を提示した後、徹底的に黙ります。
私:「…というわけで、今回の見積もりは〇〇万円になります」
客:「うーん…結構するね…」
私:「…………(無言で目を見て、わずかに首を傾げる)」
客:「…………」
私:「…………」
客:「…まあでも、これくらいの金額が、妥当なのかなぁ」
分かりますか?
私が黙り続けることで、その気まずさに耐えられなくなったお客様が、「自分で自分を説得し始めた」のです。
もしここで私が「いや、でも他社よりはお得で!」と喋っていたら、お客様は「売り込まれた」と感じて反発したでしょう。
沈黙という「真空状態」を作ると、相手はその穴を埋めるために本音を吐き出します。
コミュ障の私たちは、もともと黙るのが得意です。
その「地」を出すだけで、相手は勝手に焦り、勝手に答えを出してくれるのです。
第3章:明日から使える「地獄の沈黙テクニック」3選
では、具体的にどうやって「沈黙」を操るのか。
39歳のおっさんが現場で血を流しながら習得した、実践テクニックを伝授します。
1. 【フリーズ戦法】質問の後に3秒数えろ
お客様が何か質問してきたり、意見を言った時。
コミュ障は焦って「あ、それはですね!」と食い気味に答えようとして噛みます。
やめましょう。
相手が喋り終わったら、心の中で「1、2、3」と数えるまで、絶対に口を開かないでください。
客:「これ、ちょっと納期が遅いんじゃない?」
私:「…………(1、2、3)」
客:「…まあ、急ぎの案件じゃないから、別にいいんだけどさ」
不思議なことに、こちらが黙っていると、相手は「あれ? 変なこと言ったかな?」と不安になり、勝手に譲歩してくれることがあります。
この「3秒の魔」は、会話の主導権を握るための最強のバリアです。




・・・・・・・・・・・沈黙は効果絶大です。
2. 【困り顔フリーズ】言葉が出ないフリをする
反論されたり、値引きを要求された時。
気の利いた返しができなくても大丈夫です。
ただ、「ものすごく困った顔」をして、黙り込んでください。
演技ではありません。本当に困っているから、素でやればいいのです。
客:「もうちょっと安くならないの?」
私:「…………(眉間にシワを寄せ、下を向いて、深い溜息をつく)」
客:「…………」
私:「…………(顔を上げず、さらに5秒黙る)」
客:「…まあ、君も立場があるもんね。今回はこの金額でいいよ」
これは「可哀想な営業マン」を演出し、相手の良心に訴えかける「情けの営業」です。
プライド? そんなもの、手取り22万の生活の前ではゴミです。
相手が「こいつをイジメてるみたいで悪いな」と思ってくれれば、こっちの勝ちです。
3. 【メモ書きの結界】視線を外して「間」を作る
それでも、沈黙が怖いという人へ。
最強の逃げ道具があります。「ノートとペン」です。
会話が途切れたら、すかさず「あ、今の点をメモさせてください」と言って、下を向いてノートに書き殴ってください。
こうすれば、物理的に「喋らなくていい時間」が生まれます。
そして、書き終わって顔を上げた瞬間。
「で、先ほどの件ですが…」と切り出せば、不自然にならずに自分のペースに戻せます。
私は商談中、半分くらいの時間は下を向いてメモを取っています(実際は「今日の夕飯何にしよう」とか書いてる時もあります)。
それでもお客様は「熱心な人だ」と評価してくれる。
陰キャにとって、ノートは身を守る盾であり、沈黙を正当化する魔法のアイテムです。
第4章:陰キャ・コミュ障こそ「聞き役」の天才になれる
1. 営業の正解は「8割聞くこと」
よく言われることですが、営業の黄金比率は「聞く:喋る=8:2」です。
陽キャは喋りすぎて「5:5」や「2:8」になりがちです。
しかし、口下手な私たちは、放っておいても「聞く」側の比率が高くなります。
自分から話題を提供できないから、相手に喋ってもらうしかない。質問して、あとは頷いて黙っているしかない。
これが、実は営業として理想的なスタンスなのです。
人は、自分の話を聞いてくれる人が大好きです。
流暢に商品の説明をする人より、たどたどしくても「御社の悩みは何ですか…?」と聞き、じっと耳を傾けてくれる人を信頼します。
2. 「コミュ障」は「観察者」である
私たちは普段、会話に入れない分、周りをよく見ています。
「あの人、今つまらなそうだな」
「この部長、時計をチラチラ見てるな」
この「陰キャ特有の観察眼」は、営業において強力な武器になります。
陽キャが自分のトークに酔いしれている間に、私たちは相手の微細な表情の変化に気づける。
「あ、今、説明のここで眉が動いたな。ここが気になってるんだな」
そう気づいたら、ボソッと一言。
「…気になりますか?」
それだけでいいのです。
余計な装飾はいりません。核心を突く一言があれば、契約は取れます。
第5章:結論 ~自分を変えるな、戦い方を変えろ~
1. 陽キャの仮面を脱ぎ捨てろ
もしあなたが今、「もっと明るく振る舞わなきゃ」と無理をして、家に帰ってからどっと疲れているなら。
今すぐその仮面を叩き割ってください。
無理です。39歳にもなって、性格なんて変わりません。
無理をして演じた明るさは、薄っぺらくて、すぐに見透かされます。
それよりも、あなたの「暗さ」「口の重さ」「慎重さ」を、そのまま武器にしてください。
- 喋れないなら、黙ればいい。
- 笑えないなら、真剣な顔で頷けばいい。
- 気の利いたことが言えないなら、メモを取ればいい。
2. 地獄のような静寂を支配せよ
私の商談は、静かです。
盛り上がりもしないし、爆笑も起きない。
端から見れば「お通夜」に見えるかもしれません。
でも、その静寂の中で、お客様は真剣に考え、悩み、そして最後にこう言います。
「…分かった。君にお願いするよ」
流暢なトークなんていらない。
必要なのは、相手の言葉を受け止め、沈黙を恐れず、逃げずにその場に立つ「胆力」だけです。
手取り22万、14時間労働。
この地獄のような日々を生き抜くために、私は今日も「貝」になります。
口を閉ざし、相手を焦らせ、契約書にハンコをもらって、定食屋へ逃げ込むのです。
さあ、口下手な同志諸君。
明日から、無理に喋るのはやめましょう。
黙って、見つめて、相手が折れるのを待つ。
それが、私たちがこの過酷な営業の世界で生き残るための、唯一にして最強の「陰キャ流・生存戦略」なのです。







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